密岡譲

複合的なサービスを担当するIMAGICA・NSP(New Style Post-production)

密岡 譲/エディター

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壁に掛けられているのは、パネルに入った『ザ・フライ』と『イングリッシュ・ペイシェント』のポスター。さて、その共通項は?
「共通項がないんですけどね(笑)。映画好きの方は、だいたい『ザ・フライ』に反応するんですよ」と、やはり自身も映画好きでポストプダクションを志した密岡譲は笑う。五反田IMAGICA東京映像センターの地下階にある、NSP(New Style Post-production)の部屋。密岡はこの部屋自体の発案から関わっていて、「マルチスキル」をモットーに、企画、演出などから作品作りに携わる、エディターの枠を超えた複合的なサービスを担当している。
「なんでもやりたい人で、ひとつで終わりたくないというのが常にあるんですよ。それもあってこの部屋を作りました。加えて、編集のスタイルというのは、基本的には受け身で〈待ち〉。お客様が素材を持っていらして、”今日はどういう作業をすればいいんですか?”というところから始まる。僕はそれを変えて行きたいんです。技術においてもサービスにおいても、もっといろいろ手を尽くしたいのに、受け身で前情報がないと全部後手に回ってしまう。企画や準備、演出にも関わることで、仕事自体との関わりももっと深くしたいというのがあったんです。そうすると過程を分かっている分、お客様も安心できるだろうし、こちらの手応えも深くなる。いちから説明を受けなくていいことで、結果として作業も早くななりクオリティーも良くなると思っています」

発注者にとっても作業者にとっても、よりよい形で編集という作業を取り戻すというのも密岡の狙いになっている。
「いまはエディターが編集室で大掛かりな機械を使わなくても、監督たちが自分で編集することができてしまう。そのメリットもデメリットもあると思うんですが、”やっぱり自分ではできない”と思っている方も多いんですよね。それは時間的な理由が大きいんですが、編集という業務を取り戻すチャンスでもあると思うんです。編集者という客観的な第三者がいるほうが、いいバランスで作品ができあがることを実感している方も多くいらっしゃる。〈人のIMAGICA〉という言い方をたまにしますが、必ずしも数千万円という高額な機械が必要なくなってきている業界の流れの中で、”あの人がいるからお願いしたい”って言われる会社じゃないと、この先チャンスが広がっていかないのではないでしょうか。この部屋がそうした発信力のひとつになればと思っています」


新しいことへのチャレンジと引き出しを増やすための努力

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IMAGICA企画の4K映像の演出や編集にも関わっていて、「仕事のモチベーションは刺激とチャレンジと新しさ。ルーティーンの美学というのもあると思いますが、僕にIMAGICAで与えられた使命があるとしたら、新しいことへのチャレンジで、それが僕のガソリンにもなっています」。だからと言って、ただたんに新しさとカッコよさを追求しているだけじゃない。意欲の人は努力の人でもある。
「能天気な人間に見られるんですが(笑)、仕事をするに当たっては、当然、怖さもプレッシャーもあります。ただ勢いで楽しみながらやってるだけじゃない。加えるなら、実は努力もしていますからね。たとえば、お客様との会話の中で”あのカメラが……”って言われたときに、そこで専門じゃないから知らないやってぽかんとしているか、”あぁ、あれですね”って答えられるかで、つかめるチャンスは大きく変わってくる。そうなったときに、自分自身、知らないことが悔しいというのもあるので、日々、新しいことを考えたり、新しいものを触ったりして、引き出しを増やすための勉強はしてますね。休みの日もあれこれやっていて、よく奥さんに怒られるんですが(笑)、一瞬のチャンスのための〈貯め〉は作ってるつもりです」


編集の仕事というのは美容院のようなもの

それだけに、業界を目指す人へのアドバイスとして口にするのも、この言葉。
「僕自身、その積み重ねでここまで来ていて、それで仕事もいただけている。だからまず第一に、努力はものすごく必要ですよね。いまはすぐお客様と仲良くなって、仕事はなぁなぁでこなしていればいいやっていうような子もいて、”バカ!”と(笑)。よく新人の子に、編集という仕事は、美容院みたいな仕事だって言うんです。美容院に来た人は、髪の毛を切ってくれる人の技術やセンス、その人の接客や人柄、あと美容院の雰囲気といったもの全部を見て、ここなら大丈夫だって思ってお金を払う。さらに言うと、”こんな感じで”っていう注文に対して、希望を押さえつつ、さらにその上を行くというのが理想じゃないですか。僕も毎回、掃除はするんですが、清潔感を持ってお客様を迎え入れるという意味で、掃除から始めるというのはすごく大事なことなんですよね。あと、よくセンスがあるかないかで諦める子もいるんですが、センスは技術の努力をしてからのものなんですよね。やっぱり技術職なので、技術は大事になってくる。あとは人柄。仕事は人柄でいただくものですからね」


アウトプットの仕事におけるプライベートの楽しみ

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仕事以外の楽しみを訊いてみると、「奥さんが”私のことを言いなさい”って言っていて(笑)。だから妻です」という答えが。
「でも冗談抜きに、妻の存在や犬との散歩、ジョギングや料理っていういろんなことが楽しみになっていて、大事なものですね。アウトプットの仕事なので、そればっかりしていると、精神的なものも含めて何もなくなってしまう。もともと走ることは好きなんですが、ジョギングは不健康そうな仕事っていうイメージを打破したいというのもあってやっていて、”フルマラソンを走れるエディターですから”なんて言って、笑わせたりしてます(笑)」

コミュニケーション能力とサービス精神。努力はあるにしても、新しいもの好きだということ含めて、もともとが人好きで人を喜ばせて楽しませることが好きなのかもしれない。

NSPの部屋に飾られた映画のポスターも、訪れた人を目で楽しませて、会話の糸口にもなるもの。『ザ・フライ』と『イングリッシュ・ペイシェント』の共通項。映画に詳しくない人でも、密岡の仕事ぶりと人柄に触れればわかるだろう。SFホラーに文芸ロマンとジャンルは全然違っても、両作とも愛の物語。領域は多岐にわたっても、ぶれない芯が密岡にはある。

Text:渡辺 水央 / Photo:杉崎 勝己

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