中村謙介

レストレーション=映像のデジタル修復という仕事

中村 謙介/レストレーションスーパーバイザー

「小さいころから映画が好きで、それがこの業界に入ったきっかけです。ただ、当時好きだったのは今仕事で関わっているような旧作映画ではなくて、新しいハリウッド大作だったんですよ」

そう話すのは、レストレーションスーパーバイザーの中村謙介。学生時代に勉強したのは、3DCG。やがて編集のほうに興味が移り、映像に関わる仕事ということでIMAGICAへ。現在担当しているのは肩書通り、レストレーション=映像のデジタル修復だ。古いフィルムをスキャンしたデジタルデータの映像の欠損の修復や、揺れ、明滅の軽減、傷やゴミの修正がその仕事。数々の名作映画が、IMAGICAで修復されている。

「製作された当時の映像と同じようなきれいさを出すというのが、目指すところですね。デジタルだと様々な処理ができるということで、元の映像をさらに変えてしまうこともできるんですが、手を加えるというよりは、製作当時の状態に戻すっていう形でやることを心がけてます。」

大事で必要になってくるのは新しい技術

かつての新しいものへの興味とは、ベクトルのまるで違う仕事。その中で、「長くこの仕事に携わってきて、古い日本映画の面白さも分かってきました」と中村。また、レストレーションは最新の映像処理技術が必要となってくる作業でもある。

「古い技術が大事だと思われがちですが、今の新しい技術を応用して、効率化させることが必要な仕事でもあるんですよ。もともとコンピューターが大好きで、その中で新しいシステムを作っていくこともできる。資質が合っているかどうかは分からないですが、そういう意味ではこの仕事は自分に向いてるんじゃないかと思います」

ちなみに、映像をきれいにする仕事ということで、自身の部屋もきれいなのか聞いてみると、「きれいなほうだと思いますよ」。「実際問題としては、家の建て替えをして部屋も新しくなったので、その状態を維持したくてきれいにしてるだけなんですけどね(笑)。それ以前は、汚かったかな!? でも今の部屋の状態にしても、見る人から観れば、汚いっていわれてしまうかもしれないです(笑)」

「きれいになった」と言われる以上にうれしい言葉

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これまで担当してきた作品で一番古いものは、まさに日本最古の現存するフィルム映像である1899(明治三十二)年に製作された『紅葉狩』。歌舞伎の舞台を収めた記録映画で、重要文化財にも指定されている。レストレーションは、歴史的・文化的に意味も価値もある仕事。その感慨も作業の中で感じているのだろうか。

「そう思ってしまうと作品に対してプレッシャーを感じ過ぎてしまうので、普通の仕事なんだっていうスタンスで臨んでます。とにかくきれいにしようっていうことだけを考えてやってますね。この仕事は、クリエイティブなものというわけではなくて、言ってしまえばマイナスだったものをゼロに戻す作業。完成したときにお客さんに『きれいになったね』って言っていただけるのもうれしいですが、『この作品、面白かったね』って言っていただけることが一番なんですよ。それは映像の状態が気にならずに、一本の映画として楽しく観られたということなので。常にそういう気持ちで取り組んでます」

そんな中村の仕事以外での楽しみになっているのが、自転車。

「自転車は、太ってしまったので始めたっていうのもあるんですが、単純に体力の続く限り遠くまでどんどん行けて、何も考えずに走れるっていうのが面白いです。乗っている間は仕事のことも忘れられるので、いい気分転換になってますね。今日はこのへんまで行ってみようって決めて、行けるときは70~80キロくらい走ったりしてます。周りからは、せっかくだから、どこかに泊まってごはんでも食べたらいいのにってよく言われるんですが、日帰りで気楽に出掛けているし、走り続けていて汗ダラダラというのもあるのでお店に入るのは気が引けて。せいぜいコンビニでジュースを買うくらいなんですよ(笑)。でもそれが楽しいですね」

これからはフィルムについても改めて学んでいきたい

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自転車もまた、アナログにして最新のもの。趣味と仕事は完全に別物としても、どこか相通じるところがあるのも面白い。今後について聞いてみると、こんな答えが返ってきた。

「デジタルの知識はかなり入っているんですが、フィルムに関してはまだまだ分からないことも本当に多い。実際に自分がフィルムに携わることはないとしても、知識としてそれを身につけていけたらなっていうのはありますね。IMAGICAという職場でフィルムのスペシャリストも近くにいるので、いろんなことを聞いて覚えたいです。そういう知識があるだけで、お客様とのやりとりも違ってくると思うんですよ。そこはこれからさらにやっていきたいところです」

古きをたずねて新しきを知るのは、温故知新。中村の仕事はその逆ということにもなるだろう。古きを知って新しきをたずねる。映像のデジタル修復も新しいものだったのが、今や欠かせないものともなっていて、その仕事がしたくて業界を目指す人も出てきている。

「新入社員には古い映画が好きで、映像を修復する仕事をしたいっていう子もいます。これからは後進の育成というのもやっていかないといけないこと。僕自身、この仕事は何十年もできるものだとは思っていないので、ゆくゆくは若い子たちに技術をアドバイスする立場になっていくんだと思います。そういう立場になっていくというのも、楽しみですね」

Text:渡辺 水央 / Photo:杉崎 勝己

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