山下哲司

フィルムタイミングからカラーグレーティングの仕事へ

山下 哲司/カラーグレーダー,テクニカルディレクター

独特の映像美で知られる、ウォン・カーウァイ監督の撮り方を真似て写真を撮る映画好きの青年。それは大学生の頃の山下哲司の姿だ。ほかの映画と同じくフィルムで撮っているのに、カーウァイ監督が描き出す世界観はまるで違うもの。表現に対しての情感的な興味。仕組みに対しての機能的な興味。その興味が、いまのカラーグレーダー、テクニカルディレクターという仕事に繋がっている。

「大学の頃、ちょうどミニシアター全盛期だったんです。それまで観たことがなかったアートシアター系の作品に触れるようになって、急激に映画が好きになって。いま37歳なんですが、あの頃、ウォン・カーウァイとかトラン・アン・ユンとか、特徴ある画づくりの監督が注目を浴びていて、夢中になっていたんです。それと時期を同じくして、写真を撮ることにもはまっていて、印画紙に像が生まれる瞬間の喜びをそこで感じたのが、この業界を志したきっかけです。

最初はフィルムタイミングからこの仕事を始めたんですが、フィルムが好きで、映画も写真も好きで、フィルムの色彩調整をして映画の雰囲気を作っていくフィルムタイミングは、ある意味それをすべて結ぶものだったんですよね。実はそのときに一度、IMAGICAを受けているんです。落ちてしまって競合他社に行ったんですが、ある事情から移籍のような形でIMAGICAに入ることになって。他社から見てIMAGICAは大きい存在だったので、加入できることが決まったときはワクワクしました」

大学では、理学部で化学を専攻。映画に目覚めていなかったら、「大学院に進んで、化学の分野に入っていたんじゃないかな」と笑うが、ポストプロダクションもまた化学と繋がっているもの。そしてタイプ的に分けるなら、その理知的な話しぶりと穏やかな人柄からして、山下は理系筋の文系肌ということになるかもしれないが、その両方の資質があるところがまさにカラーグレーダー向きということにもなるかもしれない。

大事な資質となるのはコミュニケーション能力

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「この仕事において大事な資質みたいなところをあえて挙げるのは難しいですが、自分が画を作っていくわけではなく、お客様からうかがったイメージを具現化して表現していくことになるので、コミュニケーション能力というのは大事な要素だと思います。

空気を感じることが大事で、画の空気感というのももちろん大事なんですが、コミュニケーションにおける空気感も同じ。色ってなかなか言葉で表現できるものではなくて、同じ単語でも人それぞれ色の捉え方は違ってくるというのが常なんです。センスというとあれですが、経験値やコミュニケーション能力の中でお客様の意図を感じ取って、スピーディーに画に反映させていくということが重要になってくる。一方で、自分の中で大事だなと思っているのは、自分はこうしたいという思いやプランを持っていること。それがないと、誰がやっても同じものになってしまうんですよね。お客様の要望に応えつつ、自分らしさを残したいという思いも常に持ち合わせて、作業に取り組んでいます」

コミュニケーション能力は単なる接客術としてだけでなく、発注主と作品としての見せ方、コンテンツとしての見え方で共通認識を持つうえでも大切なもの。それだけに機械的なデータだけでも観念的な言葉だけでもなく、”理”も”情”も必要になってくる。

映像の質感のインパクトを映画以上に残せる媒体

そんな山下がいま、興味を寄せているのはドラマというメディアだ。

「邦画ってなんで洋画みたいな雰囲気にならないんだろうという話がよく出るんですが、それは詰まるところ洋画に負けているという意味で、私たちとしても意識するところではあるんです。その中で、”映像の高級感”をテーマにフィルムのノウハウで作ったTBS/WOWOW共同制作ドラマ『MOZU』は、洋画や海外ドラマにも負けないルックを目指して取り組んだ作品です。映画は基本的にその作品だけを集中的に観るものなので、ほかの作品とのルックの違いや、その作品のルックの印象というのはあまり残らない気がするんです。でも、テレビはチャンネルを変えれば違うルックがあって、間にCMも入るので、映像の質感のインパクトを映画以上に残せる媒体じゃないかなと。『MOZU』は連続ドラマを初めて担当させていただいた作品でもあったんですが、みんなが同じ時間に見て、リアルタイムに反響があってということが面白くて、刺激になったし、いい経験になりました」

またそうした仕事ぶりが発揮できるのが、IMAGICAという会社のよさでもある。
「映画やドラマに長けた人間、CMに特化した人間など、それぞれに専門家がいて、技術的に横に繋げていけるというのがIMAGICAのよさですよね。フィルムの経験値を持つ人間も大勢いて、『MOZU』もそうですが、そのノウハウを別のメディアで活かすこともできる。CMに関しても、いまはデジタルで撮影したものを一回フィルムにレコーディグして、さらにテレシネに返すということもあるので、ノウハウを駆使してより深みや面白みのあるサービスに繋げていける。あと、撮影機材のコーディネーションもやっていて、合成まで携わっているので、インプットとアウトプットを繋げながらサービスを提供できるのも強み。カラーマネージメントにおいては、どう撮って、どう色を作って、どうお届けしていくかというところで、少しでもブレがあると正しい色を再現することができない。その中でIMAGICAはきちんとデータ化して、各部署でそれぞれの工程を完全に網羅してカスタマイズができて、カラーマネージメントに長けているというのも大きな売りだと思います」

唯一、カラーグレーディングしない素材とは?

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仕事柄、いまは趣味で映画やテレビを見ていても、「色ばっかり気になってしまって、ストーリーに入っていけないことが多いですね(笑)」と山下。そんな彼も、こんなときばかりは色のことはまるで気にならないらしい。”理”と”情”が見事にグレーディングされている山下が、完全に”情”の人に傾いてしまう瞬間……。

「余暇の楽しみは2歳3カ月の子どもと遊ぶことで、プライベートはほぼ家族との時間に費やしてます。それが気分転換になっているし、精神的にも助けられているなと感じてます。子どもの写真や動画を撮るときは、色はまったく気にならないですね(笑)。自分の子どもの素材でカラコレはやったことないんですよ。割りとそういうものじゃないですかね? もちろん、この設定で撮ろうかというのはあるんですが、それで一回決めたら、あとはもう全然いじらないです。編集もしないし。今度あらためてやってみようかな(笑)」

Text:渡辺 水央 / Photo:杉崎 勝己

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