日本に現存する最古のカラー・トーキー映画『千人針』(1937年)の復元―アナログ・デジタル技術を活用した二色式カラー映画の色再現

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3月7日にシンガポール国立博物館で開催されたジョイント・テクニカル・シンポジウム(以下JTS)2016にて東京国立近代美術館フィルムセンター(NFC)の研究員・大傍正規氏と共に、IMAGICAの長谷川智弘(カラーマネジメントアドバイザー)が登壇し発表いたしました。その際のレポートをお届けします。

JTS2016の会場となったシンガポール国立博物館

JTS2016の会場となったシンガポール国立博物館

発表の様子

発表の様子

画像提供:東京国立近代美術館フィルムセンター

画像提供:東京国立近代美術館フィルムセンター

画像提供:東京国立近代美術館フィルムセンター

画像提供:東京国立近代美術館フィルムセンター


発表内容について

JTS2016におけるプレゼンテーションのタイトルは「The Restoration of The Thousand-Stitch Belt(1937): Utilizing analog and digital techniques to retrieve the colors of a two-color system」。(日本語訳は「『千人針』(1937年)の復元-アナログ・デジタル技術を活用した二色式カラー映画の色再現」)
シンガポール国立博物館のギャラリーシアターにおいて、20分間ほどの発表となりました。発表の前半をNFC大傍氏が担当し、『千人針』が復元に至るまでの経緯と、IMAGICAウェストにおける当時のフィルムの写真光学的なシミュレーションについてのプレゼンテーションが行われました。発表の後半で、IMAGICA の長谷川より、『千人針』のデジタル復元において採用された、世界初の手法について説明を行いました。
今回の取り組みは、『東京国立近代美術館 研究紀要』(20号、pp.22-34、2016年)所収の「『千人針』(1937年)の復元―アナログ・デジタル技術を活用した二色式カラー映画の色再現」より、その詳細を閲覧することができます。

詳細は下記
http://www.momat.go.jp/ge/research/#section1-3

このレポートにおいては、IMAGICAが担当させていただきましたプレゼンテーションから、抜粋資料とともに、今回の復元における取り組みについて説明いたします。


二色式によるカラーで表現できない発色の修復

専用LUTを使用したグレーディング

専用LUTを使用したグレーディング

今回の『千人針』におけるデジタルでの色の復元作業では、当時の赤とシアンの二色によるカラーでは表現できない発色を、復元時にどのように制限をするかという点がポイントとなりました。IMAGICAウェストでの写真光学的なシミュレーション(現在入手可能な薬品・フィルムを使用した当時の処理の再現)により得られたチャートを計測・分析し、そこからLUT* を作成しています。このLUTにより、二色式のカラーで再現不可能な色は緑、または黄色で警告される仕組みとなっています。

*画像処理において、主に色の変更のために用いられるファイルのこと。


LUT適用による効率的なグレーディング作業

画像提供:東京国立近代美術館フィルムセンター 左:カラーグレーディング前/右:カラーグレーディング後

画像提供:東京国立近代美術館フィルムセンター
左:カラーグレーディング前/右:カラーグレーディング後

左側はグレーディング前の映像にLUTを適用したもので、さまざまな理由により出現した、二色式カラーでは表現できない色が警告されています。右側は、LUTを使用しながらグレーディング(映像の色を専門に扱うスタッフ、カラリストによる映像の色調の補正・修正作業)を行った結果であり、図の通り、緑色に警告されている箇所が大幅に少なくなっています。警告箇所を減らすように色を動かすことは、本来の発色が再現されるように自然と画全体の色調が整う結果につながります。この色調調整の感覚をカラリストが掴むことで、効率的な色の復元が可能になるのです。


LUTの作成

LUTを作成するにあたっては、写真光学的なシミュレーション結果をどのように活用するのかが問題となります。様々な検証により、シミュレーションにより得られたデータから、色の違いが、ある閾値未満となる色の集合を二色式カラーの色域*の内側とみなすことが妥当な処理であるとの結果が得られました。色域内の色はそのままに、色域外の色の集合を緑または黄色に着色するという計算処理によりLUTは作成されました。

今回の復元では、二色式カラーの特徴を理解し、その色域を特定し、それらをグレーディング時に有効に活用することができたといえます。結果、『千人針』の当時の発色を再現することができました。今回の復元に係る知識を用いれば、素材そのものの詳細な色の分析が難しいケース、当時の製作者や監修者による色のディレクションが実現できない状況においても応用可能です。また、他の特殊なカラーの再現においても有効な手法となることが期待できます。

IMAGICAでは復元作業において重要な要素となる色に関して、今回のような事例を糧に更なる技術の集積に従事して参ります。

*色の鮮やかさの表現範囲のこと。規格やデバイスによってさまざまな色域が存在します。

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